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さくらいろ

Produced by サンライトスターライト

 

イラスト eaph

       

動画   神薙刃矢

      

作詞   あこの(メリコP)

作曲   あこの(メリコP)

編曲   GgG

調声

初音ミク    あこの(メリコP)

鏡音リン    るしゃ

舞い散る桜の花びらに願う

​「想いよどうか…」と。

 

小説リンク

「さくらいろ」を元に短編小説を描いて頂きました。

 

彼を軸にその後のストーリーが展開されています!!

初音ミク扮する彼女の「未来」(みく)

鏡音リン扮する幼馴染みの「鈴」(りん)

それぞれの未来(みらい)に向かって歩き出しています。

胸きゅん必須の作品です!!

 

 

短編小説「さくらいろ」

writer 神薙刃矢

 

 

まだ少し冷たい、春のはじめの風が吹く。

 

風に乗って響いてきた懐かしい歌に、僕は、思わず自転車をこぐのを止めて、振り返った。

 

卒業式。

 

手書きの墨字で書かれた看板。

 

ひらひらと落ちてきた一枚の花びらが、差し出した手の中にゆっくりと着地する。

 

視線を少し上に向ければ、昨日まではまだ蕾だった桜がぽつりぽつりと綻んで、

薄桃色の花びらを微かにそよがせていた。

 

今年の桜は、遅いんだな……。

 

去年は……、

僕達の卒業式には、ここで、満開の桜が咲いていたのだ。

 

暖かい風が、桜色に染まって、とても綺麗で……、

ああ、いや……違うか。

 

今年が遅いんじゃない。

 

去年が、早かったんだ。

 

四年前……、思い返せば、入学式の時にも、僕達はこの桜の花に出迎えられたのだった。

 

「……不思議だよな……」

 

僕達の門出を祝うように、満開に咲いた桜が、まだ、目に焼き付いている。

 

薄桃色の花びらが舞う中で交わした言葉が、まだ、耳に残っている。

 

君の笑顔、君の声、ひとつひとつ、思い出す。

 

あの日流した君の涙が、僕はまだ忘れられない。

 

 

あれから一年過ぎた今、僕の隣で笑う君を愛おしく思う。

 

離れていると、ふとした瞬間、浮かんでくる君の顔。

 

ああ、早く君に会いたい。

 

気がつけば、そう強く願っている。

 

「……未来」

 

君の名をつぶやく僕の声に応えるように、桜の梢が揺れた。

 

どうやら僕は、思ったよりも長く、あの場所に立ち止まってしまっていたようだ。

 

少し速度を上げて、待ち合わせの駅に急ぐ。

 

いつも待ち合わせの時間より少し早くやってくる未来は、

もう、時計台の下で僕を待っていた。

 

「ごめん、遅くなって」

 

両手を合わせて頭を下げると、

 

「ううん、私も今来たところだから……」

 

未来は、そんなふうに、優しい嘘をつく。

 

その顔が、少し赤い。

 

「……そっか」

 

こんな時に、気の利いた言葉の一つも言えないのは、

自分でも、男としてどうかと思うのだけれど。

 

うまく外に出てこない気持ち。

 

あの頃の未来も、こんな思いを感じていたのだろうか。

 

「あのさ……」

 

「ねえ……」

 

続きのない言葉。

 

途切れて、風に消えていく。

 

触れ合う視線と、絡む指先。

 

『まるで中学生みたいね』

 

そう言って笑う鈴の声が、耳元で聞こえるような気がする。

 

 

自転車の後ろに未来の存在を感じながら、桜並木の川辺を走る。

 

一年前、初めて未来を自転車の後ろに乗せた時とは反対の方向

——僕の家に向かって、ペダルを漕ぐ。

 

あの時と同じように、僕も未来も黙ったままだ。

 

心臓の鼓動がいつもより少し早いのも、背中ごしの未来の体温がいつもよりも気になるのも、

それはきっと、気のせいではなくて。

 

「……あ」

 

不意に小さく聞こえた未来の声に、心臓が跳ねる。

 

思わず引いたブレーキに、少し、自転車がぐらついた。

 

「今日……だったんだ」

 

前から歩いてくるのは、制服姿の少年少女達。

 

その手に握られた卒業証書に、僕の背中に回った未来の手に、少しだけ、力が入る。

 

振り返ると、顔が赤い。

 

「——あの時」

 

「うん」

 

「……鈴ちゃんがいなかったら、私、きっと、何も言えなかった」

 

「……うん」

 

僕もきっと、未来が何も言わなければ、何も言わなかっただろう。

 

今、こんなふうに言葉を交わすこともなく、きっと僕たちは別々の道を歩いていた。

 

同じ大学、同じ学部に進んでも、それでもきっと、たどり着く先は別の

——未来のいない未来だったに違いない。

 

それは多分、今より少し味気のないもので。

 

そうなっていたら、きっと、僕は後悔していただろう。

 

そんなことを考えているうちに、自転車は馴染みの道を通って家にたどり着く。

 

「ただいま」

 

「おじゃまします」

 

玄関から声をかけても、答えはない。

 

それもそのはずで、両親は、旅行中。

 

そうでなければ、鈴以外の女の子を自分の部屋に誘ったりできるわけがない。

 

鏡音家とは家ぐるみの付き合いなので、鈴はまあ、別扱いだ。

 

誘おうが誘うまいがどうせ勝手にやってくるのだし、

男友達と似たような、もしくは姉弟的な感覚から抜け出すことはないだろう。

 

少なくとも、今のように、ただ『彼女が部屋に居る』というだけで

脳と心臓が激しく挙動不審になったりはしない。

 

実のところ、一年付き合っていて、未来を部屋に入れたのは今日が初めてなのだ。

 

ゼミの課題を口実に誘いはしたものの、勿論、僕も男なわけで、つまり——……、

 

「あ、えと……、お、お茶、入れてくるから……!」

 

——……臆病なわけで。

 

なんというか、結局、なぁ……。

 

ポットでお湯を沸かしながら考えていると、

 

「何もしないの?」

 

不意に背後から声をかけられて、飛び上がる。

 

この声は——、

 

「鈴! いつ来たんだよ!!」

 

「今。未来と二人で帰ってきたのが見えたから。

 ついにこの日が来たかぁ、って思って」

 

「はあ!? だったら邪魔しに来るなよ!!」

 

「私がいると困るの? どうせ何もできないくせに」

 

「あのなっ」

 

「できるの?」

 

「…………」

 

僕が黙り込んでいるあいだに、鈴は、さっさと二階

——僕の部屋に上がっていってしまう。

 

階上から聞こえてくる未来の驚いた声は、すぐに明るい話し声に変わっていく。

 

鈴とは大学が別になって、もう、こんな機会もほとんどなくなって。

 

だから、こうして二人の声を聞いていると、高校生の頃に戻ったような気分になる。

 

もう戻れない、けれど、確実に現在につながっている、あの頃に。

 

未来達の待つ部屋に戻ると、テーブルに広げられた卒業アルバムが目に入ってくる。

 

小学校、中学校、それから、高校の。

 

おそらく、鈴が勝手に引っ張り出してきたのだろう。

 

未来とは通学区が違っていて、中学までは別の学校だった。

 

高校でも、一年と二年では別のクラスで。

 

三年生になって、初めて同じクラスになった。

 

始業式の日、人見知りなのか、恒例の自己紹介の時には、未来は少し俯いていて。

 

はっきりと見えない顔が赤くなっているのはわかったのだけれど、

それよりも、少し震える声が、それでも綺麗に耳に残ることに驚いた。

 

印象的な声、という意味では、鈴ともいい勝負で。

 

多分、未来を意識をし始めたのは、それが最初だった。

 

つまり、出会ったその日から、僕は未来を気にしていたのだ。

 

——今になって、言えることだけれど。

 

当時は、そんなことには気づきすらしていなくて、

ただ、折に触れ視界に入ってくるその姿を、いつの間にか目で追うだけだった。

 

未来と鈴が仲良くなり、一緒にいることが増えてからは、なおさらだった。

 

鈴を交えて未来と話す機会が少しずつ増えていって。

 

何度か——、

きっと、随分前から気づく機会はあったのだと思う。

 

ただ、僕にとって、男友達や部活仲間との時間は、

まだあの頃、何にも代え難い大切なものだった。

 

それを壊すことが怖くて、気づかないふりをしていたのかもしれない。

 

未来は——未来はいつから僕のことを好きでいてくれたのだろう。

 

卒業アルバムに載せられた写真。

 

季節を追うごとに近くなっていく僕と未来の距離。

 

昔は鈴の定位置だった場所に未来がいるのが、

いつの間にか自然なことになっていた。

 

文化祭、体育祭、行事ごとの写真はどれも、未来が隣に写っている。

 

どうしてこれで、もっと早くに「好きだ」と自覚できなかったのか。

 

それともただ、そうと伝える勇気がなかっただけか。

 

卒業式の日、僕は、ああ、もう、これで高校生活も終わりなんだな、と。

 

ただ漠然とした気持ちで式場になっている体育館を出た。

 

教室でひとりひとりに渡される卒業証書を受け取って、

僕は、ようやくその漠然とした気持ちが

寂寥感と不安に変わっていくのを自覚したのだ。

 

子供心に語る『将来』が、いつか終わりを迎えるなんて、考えたこともなかった。

 

けれども気づけば、いつの間にか夢はただの理想に化け、

未来はすぐそこに迫り、現実を引き連れて、決断を求めていた。

 

卒業証書を受け取った未来が泣きそうな顔で振り返って、

それでもどこか決然とした表情で自分の席に向かうのを見て

——僕は、ようやく気づいたのだ。

 

手放したくない気持ちがあることに。

 

 

結局のところ、告白は未来のほうからで、僕はただそれに頷いただけ。

 

まったく情けない話だと、鈴には散々からかわれた。

 

鈍すぎる僕は、きっと散々未来の気持ちを傷つけてきたに違いない。

 

でも、未来。

 

今なら、僕は、君が好きだと何度だって言える。

 

もうすぐ、また、満開の桜を連れて、春が来る。

 

一年後、二年後、その先もずっと、

君と二人で桜吹雪の下を歩けたなら、僕は幸せだ。

 

だから、次の卒業の日には、桜の下で、

未来、君に永遠を誓おう。

 

 

 

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